ささやかな風の動きを筆でつかんで
TEXT
藤田千彩
岡山は倉敷にある、日本で最初の私立美術館である大原美術館。
「ARKO(=Artist
Residence Kurashiki Ohara)」というレジデンス事業を立ち上げ、2回目の滞在作家が選ばれた。
日本画家の町田久美とともに、今回紹介する北城貴子が、倉敷市郊外のアトリエで制作を行った。
大原美術館での北城貴子の作品は、大きな画面に樹木が伸びたさまが表現され、あたかもそこに窓があり、
草木が風になびき、光があたるようすを感じ取ることができた。
それまで私が見てきた北城の作品は抽象絵画であったので、こんな具体的に対象が見え、かつ、聴覚や触覚にまでしびれわたる感覚を呼び起こされたことに感動した。
倉敷から電車で15分あまり、そして路面電車に乗り継ぎ、岡山市表町という商店街の裏にあるギャラリーEsprit
Nouveauでも、北城の作品が展示されていた。
大原美術館で展示されていたものと同じ手法、つまり、倉敷で滞在制作をしたときに描き溜めたデッサンを元にした、という油彩画たち。
緑なら、薄いものから濃いものまで、あるいは、紫なら、ピンクのようなものから赤紫まで、同系色でまとまったひとつの色づかいは抽象だった過去のものと類似している。
しかし、具体性が強まった今回、色よりも描くことに集中している様子がうかがえる。
風になびくように、スピードある筆づかいで木々や草が描かれている。
しっかり大地に根を張る木々のように、北城の見定める方向も根付いてきているのだろうか。
うちに帰ると、家の玄関にある小さなもみの木が風で揺れていた。
あふれる時間と高まる感受性を持って滞在制作をすることで、普段は見落としそうな、こんなささいな情景や時間を、北城は感じ取り、絵筆に託したにちがいない。
|