top\reviews[安冨洋貴 −夜想曲−/東京]
安冨洋貴 −夜想曲−


作品のズーム 鉛筆の線が画面を覆う。


左/弦影 右/僕にいたる隔たり [+zoom]
安冨はいくつか同じタイトルを作品につけているが、その関連性はまったくない。
僕にいたる隔たり

魅せられる、その理由
TEXT 藤田千彩

さっきから、安冨洋貴の作品の、何がすごいのか、ずっと私は考えている。


油絵具を用いた新作。
夜に制作をする安冨が、ふと外に出たとき、夜が明ける瞬間に見た景色がもとになっている。 [+zoom]

作品の前で話をする安冨洋貴。
伸ばした右手の小指の爪を軸にし、鉛筆を走らせるという。
 
2004年の神戸アートアニュアルで、安冨が雨に濡れる傘を描いた大きな大きな作品は、私の心にグサッときた。
それはすべて鉛筆で描かれていたから、かもしれない。
うまさだけを追求した絵画ではないから、かもしれない。
作品なのに、ドラマの一シーンに遭遇したような感覚にとらわれたから、かもしれない。
モノクロの平面だというのに暗さは感じなかったから、かもしれない。
今回改めてギャラリー本城で見たとき、神戸で感じた衝撃を思い出さずにはいられなかった。
大きな大きな画面の前で、私は「すごい」と呟いて、立ちはだかることしかできなかったあの時間を。

いまどき、と言うと語弊があるが、純粋に絵画に取り組む人をあまり見ない。
だからこそ、安冨の鉛筆やシャープペンシルだけでの表現は新鮮だ。

モノクロの画面は、安冨が夜に制作をすることの影響らしい。
暗さや怖さよりではなく、その白と黒の世界は、純粋に物を見る感覚を取り戻す。

写実的、もっというと写真みたい、とは違う。
「写真は元にしているが、自分の中に一度取り込んで描く」と安冨は言う。
傘、地面に映る影。
私たちの目にはたしかにそう見えるが、カメラにはどちらかしか写らない。
安冨が写真を見て描くとき、安冨自身の記憶や経験などのフィルターを通り、作品が出来上がる。
たぶんそのフィルターは、誰もが通過する喜怒哀楽や痛みといった、感情や感覚とも共通している。

私はひとつひとつの鉛筆づかいに目を追い、自分の呼吸やまばたきに置き換えた。
やっぱり私は、この作品の中に、いる。
安冨の魅力は、観客が作品に引き込まれることだ、と確信した。


安冨洋貴 −夜想曲−

ギャラリー本城(東京・銀座)
2006年1月11日〜28日
 
著者プロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がける。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」などでアートに関する文章を執筆中。
http://chisai-web.hp.infoseek.co.jp/




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