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奈義町現代美術館では、展示室の一つ「月」が仲秋の名月を望む方向に設置されていることから、毎年月見の季節に観月会として、音楽とアート作品のコラボレーションとなるイベントを開催している。
今年は、9月17日に、「陰陽の螺旋」と題して、朱鷺たたらの横笛と大久保宙のパーカッションの演奏会が催された。
会場となる展示室は、「大地」。池と石庭で構成され、宮脇愛子の「うつろひ」が設置されている展示室である。その石庭に椅子と楽器が置かれた即席のステージと、ビニールシートと座布団が敷かれた即席の客席が設けられた。
宮脇愛子の「うつろひ」は、室内にくねくねと張り巡らされたワイヤーが印象的な作品である。「気」の流れを表現したというワイヤーが地面から出でて室内を舞い、また地面へと還っていく。池から出でるワイヤーは水面に反射してまるで空を舞っているかのようにも見える。まさに室内が多くの魂で満たされているような、独特の空間を作り出している。そんな中で、横笛とパーカッションはどのように響くのか、大変興味があった。
観月会は、室内隅に控えていた朱鷺たたらによる篠笛のソロで幕を開けた。篠笛の音色がコンクリートの壁に反響し、過去にタイムスリップしたかのような厳粛な空気に包まれる。
そこへ、大久保宙が入場。出鼻はなんと楽器ではなく、宮脇愛子の作品であるワイヤーを叩いた。およそ楽器の音色とは言えない振動音に聴衆は一瞬驚くも、笑いがこぼれる。
しかしそれもつかの間、次に聴衆は大久保の繰り出す演奏に驚かされる。
目にも止まらぬ速さで腕を回して桶胴太鼓を叩く音は、それ自体が魂を宿しているかのようであり、その音自体がワイヤーを振動させて互いに共鳴しあい、室内が新たな「気」で満たされたかのようだった。また、ワイヤーは客席の中にもあるため、聴衆は、耳で音色を聞くほか、そうした「気」を肌で感じ取ることができる。地面に立てられたハンドドラムはまるで月の様に室内で輝き、天井には池の水面がゆらめく。まさにこの場所この時でしか味わえない体験がそこにはあった。
その後、演奏は2人の奏者の軽妙な語りも交え、楽器と音色を多彩に変えて続いていった。
中世から現代、東南アジアから中東、ヨーロッパから日本と、時代や地域を超えて二つの音色は絡み合い、その度に室内は新たな「気」で満たされていった。
しかし、そんな中でもずっと根底にあるのは生への慈しみや喜びといったあふれる生のエネルギーだったように思う。
聴衆はそうしたエネルギーを体いっぱいに浴び、観月会が終了した後も名残を惜しむようにいつまでも拍手が鳴り響いた。
当日は、観月会終了後もしばらく館内は開放され、多くの聴衆はそのまま夜の美術館を楽しんでいた。
いつしか曇っていた空も晴れ、「月」の展示室の窓の先では、夜空をまんまるい月が照らしていた。
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著者プロフィールや、近況など。
横永匡史(よこながただし)
1972年栃木県生まれ。
2002年の「とかち国際現代アート展『デメーテル』」を見て現代美術に興味を持つ。
現在は、故郷で働きながら、合間を見て美術館やギャラリーに通う日々。 |
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