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待機する宇宙
TEXT 萬翔子
愛知県立芸術大学の学生会館2階ギャラリー『学食2F』で行われた、「粒粒宇宙」展は、二つの部屋と通路を使った個展だ。出展作家は同大学美術学部彫刻専攻の2年生。個展は今回が初めてである。「粒粒宇宙」という展覧会の名前が示すように、今回展示された作品は粒子をテーマにしている。彼が作品に用いる主要な素材は、彫刻科の学生たちが金属を加工するのに使う鉄場で収集した膨大な量の砂鉄である。
最初の部屋、スペースAに入ると、何十個という黒い小石のようなものが、ホワイトキューブの中で浮遊しているのに出くわした。驚きつつも、じっと目をこらしてみると、浮遊する小石は、実は砂鉄の集積体がテグスによって器用に釣り下げられたものだということに気付く。周囲に浮遊するそれらを注意深く避けながら、部屋の中を少し歩いてみる。三次元に配置された砂鉄の、回転し、流動し続けるその位相は、まるで白い宇宙空間にただよう銀河群のようだ。明滅をくり返す星々を、ビオトープに閉じ込めて倍速で眺めたなら、きっとこんな風に見えることだろう。
占部のイメージドローイングが描かれた廊下を通り、もう一つの部屋、スペースBに入ると、今度は床の一点からのびる砂鉄の塔があった。作品の表面、砂鉄と磁力が織り成すテクスチャーは、ある種のなまめかしさをたたえており、無機物の素材とは思えない。先ほどのスペースAのインスタレーションが、動的な印象を受けるのに比べて、こちらは幾分、静的である。
思うに、部屋の床中に散らばっている黒い粒子が、何らかの凄まじい力によって一点に集められ、更に空に向かって収束されて行く過程で一本の棒になったに違いない。柱となって月夜に昇っていくあの“まっくろくろすけ”をどことなく連想させる砂鉄の塔の先端は、何かの動物の頭部にも、開きはじめる直前のつぼみにも見える。砂鉄の塔は、具体的な形を獲得し、開花するためにじっと待機している。
占部史人の作品は、世界を構成している躍動的な粒子たちの姿を見せてくれる。それらはときに拡散して私たちの周囲に満ち、またときに収斂して森羅万象を形作る。白いラボラトリーの中で、宇宙がこっそりと培養されている。それらもまた、解き放たれて外の世界へと還っていく瞬間を待っているようだ。
占部史人「粒粒宇宙」(つぶつぶうちゅう)
学食2F・OpenSpace
2005年7月11日(月)〜7月22日(金) |
著者プロフィールや、近況など。
萬翔子(よろずしょうこ)
1983年福井県生まれ
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻に在籍中 |
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