まわる世界をみている
TEXT 草木マリ
「新しい店が入るまでに時間のあるテナントがあって…」あたためてたプランにちょうどいい場所を見つけたのでやってみようと思う、と聞いたのは会期までひと月あるかなあという頃だったと思う。
照明器具は取り外され天井からは配線だけが垂れさがり、壁もはがされ基礎のコンクリートがむき出しになった小さなテナントビルの一室。これが今回、下薗の選んだ〈素材〉だった。
会場には壁や天井のコンクリートを削り落として、いくつかのオブジェが刻まれた。
飛行機。旗。ショベルカー。
その肌はいたいたしくも、屈強で少し湿気ったにおいのする見慣れたコンクリート。
しかしその下に降り積もった粉は、それとは対照的に軽くはかなげである。
これまでも彼は、〈素材〉を昇華させるような制作をしてきた。
水が氷や蒸気になるように、コンクリートも姿を変える。固体から粉末へ。たとえばそれが紐であっても机であっても、羊の毛であっても。本質はそのまま〈もの〉は形を変える。
彼が実際手がける作業はとても破壊的なもので、角材をへし折ったり、板をたわませたり、編まれた紐や布をほどいたり、家具を粉々にしたりする。そう、力技。ときには暴力的なまでに。だけど、その作業の果てに現れる作品は、ふしぎととても静かで、思いがけない変容をとげるのだ。
頭ではわかっていても、質感とボリュームの差異に、はっとする。 |