偽らざる自画像
TEXT 野田利也
東海地方を中心に活動するアーティストの連続した展覧会(個展5回、二人展1回)「FRAGMENT」における第一回目が竹田尚史による個展「うらがえった、へや」である。
この展示のハイライトはやはり、竹田自身の体重分の食料品をテーブル上に載せた作品「64kg(食料)」であろう。それはどこか供物のように見えるし、観客をもてなすためのものにも見えるが、まぎれもなく竹田の自画像である。
竹田の作品のいくつかには、自身の質量と同等量の何か(食料や、空気など)を提示するものがある。それはあきらかに「自己」を表現したものに違いないが、同時にそのモチーフはきわめて「他者的」である。なぜなら同じ質量をもつ人間はいくらでもいるであろうし、自身の質量であったとしても、それはいくらでも可変可能で不定形なものである。
この作品によって、私たちは竹田の「自己」へ対する態度を伺い知ることができる。
「自己」を作品に置き換え可能なのは、質量ぐらいなものだということだ。
「自己」を形成するのものが、内証的なもの(個人的な物語等)であるとするなら、それを例えば絵画や彫刻といったもので表現することが可能なのであろうか?それについて竹田は懐疑的である。竹田の表現する「自己」は、「この自画像は作家の内面がにじみ出ています云々・・・。」というエモーショナルなものからは遠く距離をおいている。しかし、いくら絵筆を走らせたり、石や木を削ったものよりも、竹田の提示した「自己」の方がどこまで正直なセルポートレートのように思える。なぜなら目の前にした64kgの食料品は、竹田自身(の体内)へ回収可能な代替品なのだから。
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