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手塚愛子展 −糸の浮き橋 織りのきざはし− 

会場風景
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「繍う絵」
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「織り直し」部分
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 「弛緩する織物」

 左から
 「弛緩する織物」横から
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 「織り直し」
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 「織り直し」部分
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布÷時間=糸×時間+…

今年3月に行われたVOCA展で、初めて手塚愛子の作品を見た。
絵画作品中心の展示の中、手塚が扱う素材は機械織りの布。
その布から縦糸だけを抜き取り、布と糸の中間のようなものを作りだしている。
縦糸を抜かれてだらりと形を失った、または糸を抜かれた後もう一枚の布と再び織り合わされた作品は、洗練された平面画群の中でどこか古風な雰囲気をまとって見えた。
そもそもこれは平面作品なのか?それとも立体作品?テキスタイルというにはどこか違和感があるし…
様々なことを考えながら会場を後にしたが、しばらく彼女の作品は私の頭に残った。
手塚愛子は、このVOCA展で佳作を受賞した。

転じて、今回のINAXギャラリーでの個展。
会場に入るなり糸の川が目に飛び込んできた。
VOCA展出品作では2mほどだった作品の長さは、今回の展示作品《弛緩する織物》では約10mに伸びている。壁から床に流れ落ちて弧を描く糸の束は、花嫁衣装や十二単の後ろ姿を連想させて、優雅。こうなるとこれはもう完璧にインスタレーションである。
VOCA展では他の作品との比較をしながら見てしまったが、今回は空間をめいっぱい使っての展示ということもあって、じっくり見ることができた。
ゴブラン模様の布の縦糸は、白色と黄色だ。その二色を引き抜くと、布地に花模様を作り出している赤や青や緑色などのカラフルな色糸が現れる。中間色の落ち着いたトーンの布地に、こんなに鮮やかな糸が使われていたのかと気付く。
なにより布は糸からできているというごくごく基本的なことに身をもって気付かされる。ふと自分の着ている服の袖口を眺めた。このコーデュロイのジャケットも、履いているジーンズも、当たり前だけどみんな一本の糸からできている…。
手塚は、「出来上がったものに隠されている、時間や素材などの見えないものを目の前に出したい」と語る。重要なのは、それを概念的にではなく実物でもってダイレクトに示すことだという。
素材はともかく、「時間」という本当に目に見えないものを表すことは実際にはできない。だが、この作品を見た人間はほぼ間違いなく、一本一本糸を抜く作家の姿とその作業にかかる膨大な時間を想像することだろう。

もう一つの作品「織り直し」の方はVOCA展でも見たが、ピシッと木枠にかけられていたものが、こちらでは織り直し部分が床までおろされ、より布らしい柔らかさを演出していた。布といっても別々の布から数本ずつ糸をとっただけの平織りなので、機械織りの元の布からは似ても似つかない。厚みがあって、でこぼこしていて、でもあたたかい感じがする。人類が最初に作った織物もこんなふうだったのかなあと、遠い昔の人々の暮らしについて思いを巡らせた。

TEXT 石山さやか

手塚愛子展 −糸の浮き橋 織りのきざはし−

INAX GALLARY2(東京・京橋)
2005年4月1日(金)〜26日(火)

著者プロフィールや、近況など。

石山さやか(いしやまさやか)

1981年埼玉県生まれ
2003年創形美術学校卒
現在フリーター。イラストと文章少々書けます。
現代美術はまあまあ好きです。

 

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