はじめまして。岡村裕次と申します。
本業は建築家として住宅等の設計をしています。そんな僕の周辺では、いわゆる建築家がインテリア設計をメインにやっていたり、インスタレーションやイベントの仮設建築を造ったりと美術家的に活躍する事が増えてきました。川俣正さんや岡崎乾二郎さんは美術分野から建築に近づいている感じですが、最近は建築家から美術業界に近寄っている感じがしています。
これって最近多いけど、なんなんだろう?
そんなことを考えながら、建築と美術の間に注目し、文章を書きながらあーだこーだと考えていきたいと思っています。
建築家という存在は確実に身近になっていると思います。いままでの建築家というと、お金持ちだけが設計を頼むような「庶民には関係ない人種」といったイメージは既に払拭されている事でしょう。更には安藤忠雄さんや伊東豊雄さんといった著名建築家の名前を知っている割合は増えてるなぁーと日々実感します。
その理由の一つとしてゴールデンタイムに放映されるテレビ番組「完成!ドリームハウス」や「大改造 劇的ビフォアーアフター」の存在は大きいと思います。誰もが一度は見た事があるのではないでしょうか?テレビの中では建築家の存在が「○○の魔術師」のように多少脚色されたり、湾曲されたりしているとは思いますが建築家の職能を多くの人々に知ってもらい、その存在価値を示した事は建築家業界にとっては大きな出来事だったと思います。
次の理由としては「カーサブルータス」や「pen」などコンビニでも購入できる雑誌が建築や建築家を特集し始めたからではないでしょうか。
いままでの建築雑誌は「同業者向け」であり、一つの作品が丁寧に取り上げられ、建築家自身が語るわかりにくい用語が並ぶものばかりでした。しかし、時代はより安易な方向へ動いているのかそれらの専門誌が売れなくなって廃刊し、さらっと建築を取り上げる雑誌が創刊され始めました。
それらに掲載される建築物もどこか可愛く、目新しいフォトジェニックなものが多く、一作品が二頁程度でさらっと紹介されています。文章は建築家ではなくライターが書くことで専門用語は省かれ、「どんな事を考えて作られたか」を論理的に解説するのではなく、共感を誘い、感情に訴えてくるような文面となっています。確かに限られた文字数や紙面では長い間建築家が考えてきた作品コンセプトは説明不可能かもしれませんよね。
当然掲載されている建築家はいぶし銀のベテラン建築家は少なく、若手の建築家がほとんどです。アトリエ系と呼ばれる有名建築設計事務所で5年ほど修行し、独立したての30代前半の建築家の仕事が圧倒的に多く掲載されています。やはり今の時代感をうまく捕まえて表現しているのは若手建築家なのでしょう。小さなアイディアを思いつく感性や、個人的な体験を突き詰めることから強引にでも建築にしてしまう大胆さから出来上がる建築物は美術的でもあり雑誌的には受けが良いのは間違いありません。
10年も前であれば建築社団法人の新人賞と言えば40歳代であり、建築という仕事をある程度身につけるためには長い修行が必要だ!と言われて来ましたがそれはもう過去の話になちゃいました。建築家デビューが20代、受賞が30代中頃というのも珍しくなくなりつつあるのです。建築技術が普及し、構造・設備・業者などが尽力をつくして協力してくれれば建築家にアイディアがあれば実現可能である建築領域は確実に大きくなっているのです。
いままでは建築の分野は構想から実現まで時間がかかり、お金も莫大にかかる事から流行からどうしても取り残されているような重い感じがありました。しかし現在では若手の勢いと技術の進歩によって建築家がファッションや現代美術と紙面上で横に並んでも遅れを取らないような感じになって来ているのです。
更には雑誌で近代の巨匠建築家「コルビジェ」や「ミース」も特集されはじめ、教養として身につけておくべきであるかのようなおしゃれの延長線上の一つとして建築も仲間入りしてきている感じがするのです。つまり、「コルビジェ」の「ピカソ化」です。ということが良いか悪いかは別として建築の世界がポピュラリティーを確保しはじめていると言えるのかもしれません。
いままで重く、難しいイメージがあった建築という世界が少し軽く、ポップミュージックのような一面を若手が率先してみせるようになってきているのです。