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7月下旬から8月上旬にかけて恒例の「新世代への視点2013」(7/22〜8/3)が始まった。東京の銀座、京橋、自由が丘の12画廊が開催する一種の企画展で、40歳以下のアーティストが対象である。若いアーティストがどのような作品を制作するか、どんな作品が見られるか、大いに関心があった。暑い中とりあえず銀座、京橋の11画廊を回った。今年もいい作品に巡り合えた。印象に残った作品を記してみよう。
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(左) 《無題》2013 oil on canvas 145.5x112.2cm(F80)
(右) 《みんなの木》2013年 oil on canvas 130.3x162.1cm(F100)
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鈴木俊輔(なびす画廊)
画廊展示室に油彩が10点ほど展示されていた。本人は「ただキャンバスに向かって、心の向くままに絵具をぬりつけます。どんな絵にするのか、何色にするのかは、決めません。偶然にできた、色と形のつながりや、重なりの中から、少しずつイメージをふくらませながら、絵を描いていきます」と。作品を見るとまさに彼の言う通りであろう。抽象絵画のようでもあり、具体的なイメージを描いているようでもある。何を描いているのか頻りに見てしまう、入りこんでしまうというのが見ている側の心境かもしれない。ここがこのアーティストの狙いなのか、なぜこんな発想が生まれるのかと思う。加えて作品を引き立たせ魅力的なのは色彩であろう。それぞれの色彩が乱舞しているようにすら思える。引き込まれる描き方と色彩の乱舞が魅力的なのかもしれない。
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《忘れられた海》2013 油彩・キャンバス 72.7×60.6(F20)
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高橋美羽(藍画廊)
作品《忘れられた海》は、画面の上部に夜の商店街の明かりが灯ったほのぼのとした風景が描かれ、その手前が海と波打ち際であり、一人のスーツ姿の人物が波を背に波打ち際を歩いている。複数イメージが同一画面に描かれているようだ。東日本大震災と原発問題をイメージしている意図が伝わる。もう1点《きこえてないふり》は、東京の代々木付近の風景だそうだが、ここでもスーツ姿の男性2名が登場し交差点を渡ろうとしている。交差点にはなんと牛が牧草地で草を食んでいる。これもダブルイメージを盛り込んだ作品であろう。ほのぼのとした夜の街、牧草地と牛など震災前の福島県の風景を描いたものであろう。現況はどうか。未決問題があまりにも多く対応の悪さがひしひしと感じられる。日時はかなり経過している、なぜ早急な解決を遂行できないのか、これを訴えるメッセージ性のある作品であろう。
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《網戸》2013 和紙、墨、木版 133×145cm
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遠藤美香(ギャラリーなつか)
紙に墨の木版画である。「私は「構図」を主題にしています。私は作品に嗜好が入ることを忌避します。作品のバックボーンが個人の経験に依拠する嗜好であれば、同じ経験のない他者から正確な理解を得られないからです。・・・」と。冷静に客観的に対象を捉えようとする意図が伝わる。作品《網戸》は、捉えどころがいいのか、女性が後ろ向きだからか、網戸越しだからか、人物の表情が魅力的である。ここが遠藤の言う「構図」を主題にしているというところかもしれない。《芝生》も同様で、繊細に描かれた芝生の表現、画面上部に描かれた女性の横たわる位置、女性の後ろ向きに横たわる姿、が注意を惹く。また、《雨》、《小雨》などは雨を描いた線と傘の骨の線との描き方が面白い。《雪》も同様に面白い表現だ。構図を意識して描いている様子が分かるようである。
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《raindrop》2013 素材: 楠 サイズ: h.200cm(置き方によりサイズ可変)
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村上佳奈子(ギャラリー川船)
抽象木彫作品である。村上は、「頭の中に浮かぶ螺旋状の形。・・・私はそれらの作品を通して浮遊する世界観を作っていきたいと思っています」と言う。素材は楠で、一つの木の固まりからこのような螺旋形の彫刻作品を制作するそうである。写真にある作品3点《raindrop》(2013)はそれぞれ高さ2m、かなり大きい。木の固まりを周到に計画した制作過程に沿って作業を進め作品に仕上げるのであろう。村上は「無意識に描かれる曲線 その曲線は浮遊した感情のように定まった形がない それを立体に置き換え存在させることで 新たな感情を浮遊させる」と。平面から立体への過程でより明確に心の動きが込められるのかもしれない。単なる木の固まりから内部にまで手を入れ細いひと続きの曲線にまで持っていく。この過程で新たな感情が生まれるのであろう。技巧の見事さは格別だった。
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《UNTITELD》2013 ガラス 約 h130 x w200 x d 200cm
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谷口嘉(ギャラリー現)
部屋の中央部に透明なガラスの作品(写真)が展示されていた。高さ1.2メートルほどだろうか。40〜50本ほどが床の上に林立していた(実際には、高さ124cmから130cm、本数は60本)。1本1本の先端はゴルフで使用するアイアンのような形だが透明、軸の部分は、すりガラス仕上げで白く輝いている。床上にそれぞれ接着剤で貼付してあるそうで、これだけ多くまとまると見事だ。周囲の壁面が白なので、透明と白の作品としては、魅力がやや減殺されたかのように感じた。展示場所によっては見え方が変わるのではないか。谷口はもっぱらガラスを使って制作しているようだ。壁面には小作品が3点展示されていた。あまり大きくない透明なガラスが、びょうで何枚か止められていた。関心があったのでこれまでの作品を写真で見た。面白い作品が何点も見られた。まだまだヴェリエ―ションはあるようだ。今後の発展を期したいものである。
このほかにも気になる作品は何点もあった。庄子和宏(コバヤシ画廊)。描き方が前出鈴木俊輔の作品に近く何が描かれているかつい引き込まれる。また、上根拓馬(GALERIE SOL)は、私の力不足で「ガーディアン」という概念にまでたどり着けなかった。今後の私の課題である。その他にも各自がそれぞれ力を結集して制作している様子が手に取るように理解できた。毎年期待して見ているが今年も楽しく見ることができた。
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著者プロフィールや、近況など。
菅原義之
1934年生、生命保険会社退職後埼玉県立近代美術館にてボランティア活動としてサポーター(常設展示室MOMASコレクション作品ガイド)を行う。
ウエブサイト アートの落書き帳
・アートに入った理由
リトグラフ購入が契機、その後現代美術にも関心を持つ。
・好きな作家5人ほど
作品が好きというより、興味ある作家。
クールベ、マネ、セザンヌ、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルなど。 |
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