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美術散歩


こんなところが会田誠の人気なのか

TEXT 菅原義之


《灰色の山》 2009-11年 アクリル絵具、キャンバス 300 × 700 cm タグチ・アートコレクション蔵 制作協力:渡辺 篤 Courtesy:Mizuma Art Gallery


《あぜ道》 1991年
岩顔料、アクリル絵具、和紙、パネル 73 × 52 cm
豊田市美術館蔵、愛知
Courtesy: Mizuma Art Gallery


 
 作品をそれほど多く見ていないので会田誠についてここに記載するのは不適かもしれない。しかし今回の展覧会「会田誠展:天才でごめんなさい」(森美術館)を見て表現内容の広さに戸惑いを隠せなかった。心地悪い、不気味な作品《ジューサーミキサー》、《犬》シリーズ、《大山椒魚》などなど何点もあったが、自分の価値観をちょっとずらせば、それを帳消しにするほど発想の面白さ、素晴らしさが見られた。例えば、《あぜ道》、《考えない人》はそれぞれ東山魁夷とロダンのパロディーだろうし、《灰色の山》は一歩間違えると生存すら厳しい現代社会そのものを表現しているようだし、少し離れてみると見事な山水画でもある。なるほど、こんなところが会田の人気なのかもしれない。

 その他日本の名作のアプロプリエーション(流用)といっていいのか、過去の作品を土台にして会田独特の世界を描いているものがある。"ボーット"見て気付かなかったが、後で言われて"あっ"そうかと思う。《電柱、カラス、その他》はカラスのくわえているものを見ると驚くが、離れてみると菱田春草の《落葉》とか、長谷川等伯の《松林図屏風》などが原点にあるようだし、実際に比較すると納得である。《大皇乃敝尓許曽死米(戦争画RETURNS)》(おおきみのへにこそしなめ)は旅行会社のパンフレットやチラシを敷き詰めた上に描いたもので、一見ごちゃごちゃして混沌を描いたように思える。これは戦争画リターンズの中の1点だが、藤田嗣治の《アッツ島玉砕図》が念頭にあったようだ。こう見るとガダルカナル、サイパンほか余計見えてくるものがあるから不思議だ。あの有名な《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》(にゅうようくくうばくのず)も同様である。このように過去の名作をちょっと借用して現代をパロディー化する。その着眼点の冴えに驚く。発想にゆとりすら感じられる。


《電信柱、カラス、その他》 2012年 六曲一隻屏風/アクリル絵具、キャンバス、パネル 360 × 1020 cm 撮影:渡邉 修 写真提供:森美術館 Courtesy: Mizuma Art Gallery



《ジャンブル・オブ・100フラワーズ》 2012年− アクリル絵具、キャンバス 200 × 1750 cm 撮影:渡邉 修 写真提供:森美術館 Courtesy: Mizuma Art Gallery


《滝の絵》 2007-10年 アクリル絵具、キャンバス 439 × 272 cm 国立国際美術館蔵、大阪 Courtesy: Mizuma Art Gallery


 
 これだけではない。《滝の絵》、《ジャンブル・オブ・100フラワーズ》なども大作である。前者は、滝で水着姿の少女が何十人も遊んでいる絵画である。少女がいろいろな格好している様子はまるで北斎漫画の現代版のようでもある。水着姿のたくさんの少女、エロス表現だろうか、と思う。後者は、これも多くの裸体の少女がこっちに向かって走ってくる姿を描いている。よく見ると身体が一部破損した瞬間だろうか。破損部分からは出血ではなく花びらが舞っているようだ。明るい顔つきで走っているが、現実は必ずしもいいことばかりではない。何時ぞや遭遇するかもしれない心の傷を表現しているように思える。明るい表情から深刻さは感じられない。横に長い巨大な作品である。
 このほか面白いのはダンボールで制作した《新宿城》である。背後に都庁の近代ビルがそびえる。新旧の対比が面白い。また、《モニュメント・フォー・ナッシングU》は凄い。ダンボールで制作した巨大な作品である。彫刻といえば素材としてブロンズ、石、木などを使うが、ダンボールで素晴らしい迫力のある作品を制作する。ここでは既存の価値観を否定し、ダンボールの世界へと再構築する。こんなところが痛快そのもの。いかにも会田らしい。

 ついでながら展覧会タイトル「会田誠展:天才でごめんなさい」の中の"天才云々"は、いっぱい飲みながら思いついたかなりいい加減なもの、と本人は言っているが、会田だからこそ嫌みなく聞こえるし、むしろ親しみが持てる。天才云々はどうでもいいことだが、全貌して表現方法が途轍もなく広く一人のアーティストが制作したものとは思えない。それと発想の面白さ、素晴らしさには圧倒される。自分の価値観とちょっとだけ合わないところが残念なんだが。


会田誠+21st Century Cardboard Guild 《モニュメント・フォー・ナッシング II》 2008年− ダンボール、その他  サイズ未定 Courtesy: Mizuma Art Gallery

 会田誠は国内では知られているが、海外ではほとんど評価されていないそうである。これについて本人は無頓着のようだ。当然だろう。この世界に独自の価値観を持ち込もうとしているんだから、と思う。これがまた魅力的なところである。海外の評価といえば村上隆と比較すると面白い。村上は会田とは正反対だからである。この世界は現在でも欧米中心に動いている。村上は欧米中心であるからには、欧米の価値判断ルールを把握し、とりあえずそのルールに基づいて行動すれば評価されるはずだという。自分の本来の考えを主張するのはその後でいいのではないか。これが村上の考え方であろう。図書「奇想の系譜」(辻惟雄著)の中で、辻は、岩佐又兵衛を始め、蕭白、国芳に至る流れを奇想の系譜として表し、遊びとかパロディー表現こそ日本の持つ伝統的なものではないのか、と指摘している。村上の思考する方向はこのあたりにあるのではないか。
 海外評価の対応という点では、村上の考えの方がオーソドックスだろう。ただ、両者に類似している点もあるようだ。日本の美術史上の作品に目を付けているところである。村上は「芸術新潮」で「辻惟雄×村上隆 ニッポン絵合わせ」でやり取りを長い間やっていたし、会田は前述のように美術史上の作品を取り込んでいる。村上は奇想派、会田は伝統派かもしれないが、両実力者の着眼点がここにあるのは興味あるところである。特に会田が今後どんな動きをしていくのか、ついていけるかどうかを含めて注視していきたいものである。

 
著者プロフィールや、近況など。

菅原義之

1934年生、生命保険会社退職後埼玉県立近代美術館にてボランティア活動としてサポーター(常設展示室MOMASコレクション作品ガイド)を行う。

ウエブサイト アートの落書き帳

・アートに入った理由
リトグラフ購入が契機、その後現代美術にも関心を持つ。

・好きな作家5人ほど
作品が好きというより、興味ある作家。
クールベ、マネ、セザンヌ、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルなど。


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