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美術散歩

「SPACE FOR YOUR FUTURE」展を見る

TEXT 菅原義之


同展フライヤー



同展フライヤー

 東京都現代美術館で開催された「SPACE FOR YOUR FUTURE」展を見た。アートの世界をダイナミック(動的)にとらえ今後の方向性を示していて面白かったし参考になった。森美術館で行われている「六本木クロッシング2007」展と狙いが近いところにあったのではないか。 
 「クロッシング展」は、絵画、彫刻、写真、映像など裾野の広がったアート界を全貌しその範囲を示唆していたし、今回の美術展は、アートと建築、デザイン、ファッションなど既存分野との融合によって各分野単独では得られない新しい世界を示していた。
 後者が未来の方向性を具体的に強く主張したと思うが、両者とも美術界の的確な現状把握と未来志向の素晴しい参考になる企画だった、と思っている。

 この美術展に参加しているアーティストの一人であるオラファー・エリアソンはこんなことを言う。「アートは、科学、デザイン、建築、ファッション、カーデザインなど、さまざまな領域と対話するための言語です。いわば百科事典のようなもので、いかなる領域においても発言権を持てるものだと思います。アート自身は多くを語らなくとも、他の分野と関わることによって個別の分野で創造される以上のものを作りだすことができます。」(図録より)
 この内容こそこの美術展の狙いだったと言うことができるだろう。

 作品(順不同)を見てみよう。
 なんといっても驚いたのは石上純也の「四角いふうせん/balloon」である。美術館中央の広い吹き抜けにある作品だった。この吹き抜けホールの地下2階から地上3階までとてつもなく大きな四角いふうせんが宙に浮いている。形はやや変形の立方体。厚さ3ミリのアルミ製で重さ1トンだという。中にヘリウムガスを入れ浮力と重量のバランスを取っているそうである。しばらく観察すると時にはやや上昇するので係員がそっと引き下げる。そのときの気温などによっても状況が異なるそうである。ふうせんの重さとヘリウムガス量のバランスはさすが建築家の発想か。アートと建築の融合作品か。巨大さに驚き、奇抜な発想に感心した。

 これもいかにも建築家の発想と思えるSANAAの「フラワーハウス/Flower House」である。2分の1模型なので実感があった。理想的とも思える庭が目の前に展開されていた。上から見ると花びらをかたどったような家。不思議な形である。透明な壁でできている。温室のようにも思える。多くの樹木や花のある庭、ところどころに庭園用の椅子やテーブル、ベンチが置かれている。家の外に置かれた鑑賞用の椅子に座ってしばし眺めた。こんな家に住んで自然を独り占めできたらナーと思う。ほっとする瞬間、和みを感じさせる。これこそアートと建築の融合作品。素晴しさの典型かもしれない。

 トビアス・レーベルガーの作品「母型81%/mom81%」、ガレージである。形と色彩が独特である。原色が多用された変形ガレージで目立つ作品だ。このまま日本の住宅に設置したら確実に問題になるだろう。真赤なドアは食パンの断面、ガレージの壁面を背にしたカラフルなベンチつきでもある。内部にはいろいろ斬新な絵が。形状といい、色彩といいこれまで見たこともない。面白い。何でこんな発想がと思えるほどだった。レーベルガーの表現活動はデザインやファッション、建築など多様な領域に渡っているそうである。これを聞いて「さもありなん」。これこそ分野融合の効果であろう。一見に値する作品である。

 フセイン・チャラヤンの「LEDドレス」「レーザードレス」、特に「LEDドレス」が目立った。室内中央にそのLED装着のドレスはあった。ドレスそのものが光り輝いている。こんな発想もあるんだ。内側からの発光できれいなドレスである。薄いブルーにところどころピンクが混じっている。こんなドレスが今後できるかもしれない。よく見るとドレスの下からコードが覗いていた。アッそうか、電源が必要だから着て歩き回れないんだ、と。もしそれさえ乗り越えられれば実現可能であろう。ファッションとアート、そこに思いもつかない新たな作品が出現していた。

 エルネスト・ネトの「フィトヒューマノイド/phitohumanoids」は作品に入り込むというか、着るというかである。ネトのコーナーに行くと係員から「試してみますか」と聞かれた。せっかくの機会だ。「はいっ」と言うと大きめのものを選んでくれた。係員の指示通りセーターを着るように頭から作品をかぶり両手を通した。後は「お尻をついて仰向けに寝てください」である。ネトの作品特有の布団とは異なる歯切れ?のいい(ズブッと入り込む)ふわふわ感が伝わった。寝心地はしばし疲れを癒すのに十分だった。ソフト・スカルプチャーともいえるこの作品は我々をユートピアの世界に運ぶのが目的だったのだろうか。

 嶺脇美貴子の作品「mineorities」である。彼女はジュエリー・デザイナーだ。説明を聞かないときれいだと思いつつ見ながら通り過ぎてしまいそうである。作品はアクセサリーだった。アクセサリーといっても制作方法が独特だ。リコーダー、プラモデル、百円ライター、ボールペン、水鉄砲、ビニールのおもちゃなど身近なものを輪切りにするなど加工してアクセサリーを制作する。きれいなアクセサリーである。貴金属、宝石などを使った高価なアクセサリーをあざ笑うかのようでもある。あるいは廃棄されてしまうものへの新たな世界を提示しているのかもしれない。

 オラファー・エリアソンの「四連のサンクッカー・ランプ」は正面から見ると左右斜め45度方向に銀色の円盤が置かれ円盤中央の光源からオレンジ色の光を、中央部は別な装置でグリーンの光を反射していた。このコーナーに入ったとたんにオレンジ色の強い光が飛び込んでくる。部屋一面である。作品を直接見ると目をいためるほど明るい。壁面を見るとオレンジ一色、一部グリーン光の影響によるやや黄色未を帯びた光が感じられる。微妙なトーンの変化が壁面に映っていた。大きな壁面を意識してこの作品を提示しているのではないか。建築分野に語りかけているのかもしれない。不思議な世界に引き込まれるようだった。

 マイケル・リンの「無題/untitled」は絵画作品である.部屋の奥に花柄模様のきれいな絵画が展示されていた。よく見るとこの絵のキャンバスから花柄が延長して白い壁一面にドローイングがなされている。たどっていくと部屋の壁面すべてである。中央部に展示された色彩豊かな絵画と壁一面のドローイングが一体となって見事な空間を表していた。安らぎを与える作品だった。ドローイング部分はあまり目立たないが、その奥に色彩豊かな素晴しい絵画である。ふと万華鏡を思い出してしまった。伝統的な台湾の花柄模様が現代的に絵画化されたものだそうである。建築空間にぴたりだということもできるだろう。

 アシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカス(avaf)の作品は貧民街のバラックである。廃材を利用した粗雑な建物ともいえる。入口が二箇所、別に階段があり狭い屋上つきである。内部は小さな部屋が二つだったか、座布団が敷かれ入れば狭いのでかえって心が安らぐ。もう一方の入口からも同様である。両者は壁で仕切られている。建物の周囲と内部には得体の知れないサイケ調の絵画だろうか一面に展示されている。Avafは「そもそもアートとデザインという二つの領域に分けて考えることをしません。我々はアイディアを表現する上での有効性を一番に考えています」と言う。また、「高度情報化のもとで表現がひとつの限界にきていると思いますか?」に対して「限界などないと思っています。」これがこのグループの考え方で力強さを感じた。作品も全く同様でその考え方そのもののようだ。一見無謀に思えるが面白い作品だった。

 ショーン・グラッドウェルは3点の作品を展示していた。そのうちの1点《二つのフレームのラインワーク/Double Frame Linework》が面白かった。彼は「ダンスとスポーツの中には、特定のアート活動と密接な関係を持つものがあります」と言う。この作品はカメラを装着した自転車で道路を走る。カメラが道路を捕らえる。道路に引かれた白線が右に左に行き来する。もっとまっすぐに走れないものかと思わせるよう。運動量の多用される作品だが、白線があたかも生きもののように左右に行き来する様子がダイナミック(動的)で面白かった。ほんのちょっとしたことだが、発想の面白さに惹かれた。見とれている人がほかに何人もいた。

 以上10名の作品を取り上げたがこのほかにも面白い、素晴らしい発想だと思える作品が何点かあったことを付言しておきたい。
 美術手帖12月号の記事「長谷川裕子へのインタビュー」の中で彼女は、「今日のアートは、美術史だけを見て自分の絵を描いている世界ではないとわたしは思っています。・・・」、「今を生きていて、世界の大きな変化に何処まで意識的であるかが大切です」と言う。全く同感だった。この考え方がこの美術展のベースになっているし、これこそこの時代のあるべき姿ではないだろうか。示唆に富む素晴しい美術展だった。


   
著者プロフィールや、近況など。

菅原義之

1934年生、生命保険会社勤務、退職後埼玉県立近代美術館にてボランティア活動としてサポーター(常設展示室作品ガイド)を行う。

ウエブサイト ART.WALKING

・アートに入った理由
リトグラフ購入が契機、その後現代美術にも関心を持つ。

・好きな作家5人ほど
作品が好きというより、興味ある作家。
クールベ、マネ、セザンヌ、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルなど。

 

 

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