topcolumns[美術散歩]
美術散歩

"20世紀美術探検"展

TEXT 菅原義之


美術館概要










「20世紀美術探検」展図録

 新装なった国立新美術館で開催されている“20世紀美術探検”展を見た。作品が多く見るのに2時間20分もかかり、経過時間からも大きな美術館だと実感した。
 千代田線乃木坂駅からそのまま美術館に行かれ便利。展示室はそう混んでなく、十分時間をかけて見ることができた。

 展示は3つの部分からなっていた。
第1部が“20世紀美術における物とその表現”
第2部が“20世紀美術における物と人間の生活”
第3部が“マテリアル・ワールドに生きる”
である。
 第1部はセザンヌの静物画から始まり、キュビスム、ダダイスム、シュルレアリスム、戦後ではポロック、フォンタナ、クライン、デュビュッフェなど1950年代の作品をはじめ、1960から70年代のミニマルアート、ランド・アート、アルテ・ポーベラ、もの派などが展示され美術作品変革の推移がわかるようだった。

 第2部は20世紀美術を前半と後半とに分け、美術のほか工芸作品(陶器、漆器、家具など)を含めた展示だった。驚いたのは入るとすぐデュシャンの作品コーナー。《自転車の車輪》、《瓶乾燥器》、《泉》などをはじめ10点以上が展示されていた。“えっ!日本にこんなに多くデュシャン作品(京都国立近代美術館所蔵)があるの?”と。
 イスではトーマス・リートフェルト、ミース・ファン・デル・ローエなど有名どころ、陶器では濱田庄司、富本健吉の作品なども展示されていた。
 デュシャンに引き続き、戦後はフルクサス、ネオ・ダダ、ポップ、コンセプチュアル・アートなど革新的、急進的と思える展示、デュシャンの影響の大きさを改めて感じた。

 第3部は現代美術家6人、アンドレア・ジッテル、シムリン・ギル、コーネリア・パーカー、マイケル・クレイグ=マーティン、日本人では田中功起、高柳恵理の作品が紹介されていた。選ばれた6人だけあって魅力的な作品が多かった。

 以上だが、第1部と第2部の分類は単に20世紀を美術史に沿って振り返ると面白みがないという理由からだろうか、工夫を凝らした痕跡がみられ、その趣旨は理解できたが、第1部と第2部が錯綜し勝ちで20世紀の流れからみてややわかりづらい分類方法ではなかったか。と思う。

 作品数(約600点)があまりにも多かった。セザンヌから始まって、ピカソ、デュシャン、マン・レイ、キリコ、ポロック、ジャスパージョーンズ、ウォーホル、ボイスなど20世紀を代表するアーティストたち、日本人では、萬鉄五郎、岸田劉生、里見勝蔵、梅原龍三郎、安井曽太郎、長谷川潔、浜口陽三、吉原治良、斎藤義重を初め“もの派”の美術家たち、戸谷成雄、遠藤利克、森村泰昌などの作品が展示されていた。

 作品数多く選択に窮するが、森村泰昌、コーネリア・パーカー、田中功起などが興味を引いた。

 森村泰昌の作品は、セザンヌの静物画《りんごとオレンジ》の模型を作り、それをいろいろの角度で写真を撮り、コンピュータで処理しているそうである。7点が額つきで展示されていた。1点1点が複数視点で撮影されているが、それぞれが微妙に異なる。森村の顔付のりんごとオレンジも1点ある。セザンヌの思考回路を作品のヴァリエーションで表現しているかのようである。面白かった。着想も素晴らしかった。

 コーネリア・パーカーの作品《ロールシャッハ》は銀製の管楽器、器、スプーン、フォークなどを叩いて平たく伸し、それを床から10センチほどの高さに細い針金で水平に吊るしたもの。配置がグループごとにほとんど左右対称で一律の高さと銀色一色で統一され、大きな部屋一面に吊るされている。叩いて(破壊)さらにそれを左右対称にまとめあげる(再構成)。元の機能を失った物による全く別世界の表現。見事な光景が展開されていた。

 田中功起のコーナーには何点もの作品が展示されていた。特にテレビ・モニターを使った映像作品が興味を引いた。紙コップをテーブルに落とすとすべて口を上にして立つ。重心がコップの底にあるんだろう。何回繰りかえしても同様になる。また、いくつものトイレットペーパーに棒を差し込み一気にその棒を引き抜く、トイレットペーパーが散乱する。同様な作品がほかに何点もあった。いずれも日常的な素材を使った単純な作品に思えるがつい見入ってしまう。面白いし、アイディアもよかった。

 時間はかかったが、いい作品を多く見ることができた。20世紀美術が全貌できるような充実した美術展だった。

追伸

 “20世紀美術探検”展図録(約400ページ、2000円)、数多く作成したからか、グランド・オープニング展なので出血サービスしたかわからないが、この図録は大冊の割りに安かった。20世紀美術を見るのに参考になりそうでもちろん購入した。念のため。


 
著者プロフィールや、近況など。

菅原義之

1934年生、生命保険会社勤務、退職後埼玉県立近代美術館にてボランティア活動としてサポーター(常設展示室作品ガイド)を行う。

・アートに入った理由
リトグラフ購入が契機、その後現代美術にも関心を持つ。

・好きな作家5人ほど
作品が好きというより、興味ある作家。
クールベ、マネ、セザンヌ、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルなど。

 


topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.