岡本太郎は「今日の芸術」(光文社文庫)の中で次のように記している。
「すぐれた芸術には、飛躍的な創造があります。時代の常識にさからって、まったく独自のものを、そこに生み出しているわけです。そういうものは、かならず見るひとに一種の緊張を強要します。
なぜかと言いますと、見るひとは自分のもちあわせの教養、つまり絵にたいする既成の知識だけでは、どうしてもそれを理解し判断することができないからです。・・・」
また、こうも言っている。
「すぐれた芸術家は、はげしい意志と決意をもって、既成の常識を否定し、時代を新しく創造していきます。・・・そういう作品を鑑賞するばあいは、こちらも作者と同じように、とどまっていないで駆け出さなければなりません。だが、芸術家のほうは、すでにずっとさきに行ってしまっているわけです。追っかけていかなければならない。・・・その距離をうずめていかなければならないのです。」
戦後まもなくアメリカに出現した抽象表現主義、その後ネオダダ、ポップ・アート、ミニマル・アート、さらに概念芸術(コンセプチュアル・アート)、80年代になり新表現主義などの流れがつぎつぎと現れた。同時に写真、ヴィデオなどの映像作品群、インスタレーション、パフォーマンスなどをみるに至り、その範囲は際限なく広がるかのようである。
本書は、この複雑な流れの中で、上記“美術の流れ”にそれぞれ対応する代表的作家を30人紹介している。1999年までを対象にしていて、ごく最近までの状況が理解できる。終章として「20世紀から21世紀へアートはどこへ行くのか」で締めくくっている。
構成は、個々の作家について、それぞれ7ページほど紙面を割き、おおむね美術の流れ、各作家の作風や作品、必要に応じて同様の考え方を持つ作家例示などに及んでいく。それぞれ代表的な作品の写真つきでもある。
私には本書読了後、いくつもの発見があった。岡本太郎の言う“ずっとさきに行ってしまっている芸術家に追いつく”ために、“その距離をうずめようとする人”のために、本書は絶好の図書であろう。
著者プロフィールや、近況など。
菅原義之
1934年生まれ、中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、退職直前の2000年4月から埼玉県立近代美術館にてボランティア活動としてサポーター(常設展示室作品ガイド)を行う。
・アートに入った理由
1976年自宅新築後、友人からお前の家にはリトグラフが似合うといわれて購入。これが契機で美術作品を多く見るようになる。その後現代美術にも関心を持つようになった。
・好きな作家5人ほど
作品が好きというより、私にとって興味のある作家。クールベ、マネ、セザンヌ、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルなど。 |
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