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シオイリズム

常識にひそむ狂気
中島美々+田中洋平のパフォーマンスin遊工房アートスペース

TEXT 塩入敏治

 中島美々のパフォーマンスを遊工房アートスペースで観た。パフォーマーは中島美々と田中洋平のふたり。グループ展の初日、オープニング・レセプション会場でのことだった。

 中島のパフォーマンスは、昨年行われた東京藝大の交流展で初めて観た。オープニング・レセプション会場にウェイトレス姿で現われた中島は、食べ終わった皿を集めて一箇所に積みあげた。しだいに高くなった皿は、安定を失い大きな音をたてて崩れ落ちた。突然の演出に、それが中島のパフォーマンスだと気づいた人はどれだけいただろう。それほど意表を突いたパフォーマンスだった。

 遊工房では、オープニング会場に観客が集まった頃、寿司ネタを腕にならべて中島と田中が現われた。ふたりは観客にそれを振舞いながら会場内を廻った。すこしコミカルで、常軌を逸した光景であったが、肌のぬくもりを感じさせる間接的コミュニケーションとして、観客の気分をやわらげた。また、何かが始まりそうな予感を感じさせるのだった。導入としてのパフォーマンスはこうして終わった。

 本番のパフォーマンスはいつのまにか始まった。ビジネススーツを着たふたりは、会場に横たわる2本のロッカーキャビネットを抱きかかえて、まっすぐに立てた。するとふたりは、ヤカンを口にくわえ、なりふりかまわずロッカーによじ登った。登り終えると、不安定なロッカーの真上に立ちあがった。

 ふたりは両手を天井にあて、抱き合うようにしてロッカーをまたいで渡った。不安定なロッカーを渡るのはたいへんスリリングで、緊張の連続であった。それはロッカーから降りるまで続いた。総じてパフォーマンスは制服のイメージを覆す大胆な行動であり、制服姿にとても安心していられる状況ではなかった。

 中島のなりふりかまわずロッカーによじ登る姿はコミカルであると同時に、全身で奮闘する姿にエロスさえも感じた。あるいは見慣れた制服姿への挑発であり、既成概念への挑戦であった。狂気が日常に潜んでいることをそれとなく感じさせ、思いがけず見てしまった思いにさせる。常識の組み替えから生じる異常性に焦点をあてたパフォーマンスかも知れない。普段の中島からは想像もできないパワーを感じた。

遊工房アートスペース

2005年8月27日(土)午後6時より

著者プロフィールや、近況など。

塩入敏治(しおいりとしはる)

現代美術コレクター(コレクター歴25年)
独立キュレーター(キュレーション多数)
GalleryReviewの発行
現代アート大好き人間



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