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認識の範囲のそと

TEXT 中村千恵

美術作品であれ雑誌であれお店であれ、見せるものは見られるように、見せる必要のないものは見せないように編集されている。でもわたしたちが生活している現実世界には、表側のものと同じくらいかそれ以上、裏側のものたちが存在している。たとえば、駅前でつい受け取ってしまったパチンコ屋のうちわとか、たとえば毎日会う人に車に乗せてもらったときに知る運転時の人格の豹変ぶりとか。必要性があってPRされているもの・見せようとされているものを見て・見せられているうちに、わたしたちの目は大人になり見せようとされないものが見えなくなっているのではないだろうか。
目には入っているのに、ないものとして考えてしまうということ。

竹崎和征と玉井健司によるインスタレーション「グラフト」は、木で作られたリコーダーに同じく木が接がれ、リコーダーの穴におしろい花が活けてあるのを中心に、金魚や壊れたおもちゃやトイレットペーパーや飲みかけのペットボトルなど見せないものたちがちょっとずつつながりを持ったり持たなかったりしながら散らばる。見せようとされないものたちが、ギャラリーの空間に置かれることによって、見せようとされる。わたしたちの認識が、見せようとされないものたちを自動的に切り落としていることを考えれば、見せようとされないものを見せようと強調し見せようとするものと並列されることで、目が学習する前の世界の見え方に近付けさせようとしているのだと思う。

たとえばCMでやってるような大型店やチェーン店には足を運ぶが、何年も住んでいるのにすぐ隣にある商店街の小さなお店に入ったことがない、ってことはよくあるだろう。それがいけないわけではない。そこにあるのに見えてないものがあることを認識してまわりを見渡してみると、見るべきもの・PRされているもの以外のものの存在を発見できるようになると思う。


「グラフト」竹崎和征x玉井健司

takefloor
2005年9月9日‐10月8日

著者プロフィールや、近況など。

中村千恵(なかむらちえ)

1979年、愛知県豊田市生まれ
2000年、北九州で美術に出会う
現在、東京で派遣しつつ美学校アートプロジェクトラボに通っている。

   

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